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東京地方裁判所 平成6年(行ウ)333号 判決 1995年9月22日

原告 ダイナベクター株式会社

被告 東京法務局渋谷出張所登記官

代理人 東亜由美 高野博 兼行邦夫

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求の趣旨

被告が原告に対してした別紙物件目録<略>記載の土地についての東京法務局渋谷出張所平成六年四月一四日受付第八八三七号所有権移転登記に課される登録免許税の額を六二三万〇一〇〇円とする認定処分のうち、二八七万四〇一〇円を超える部分を取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)について東京法務局渋谷出張所平成六年四月一四日受付第八八三七号所有権移転登記(以下「本件登記」という。)に課される登録免許税(以下「本件登録免許税」という。)の額を不服とする原告が、右税額は被告の違法な認定処分により確定されたものであることを前提として、その認定処分の取消しを求めた訴訟であり、被告は、右税額を確定する被告の認定処分なるものは存在しないとして、訴えの却下を求めた。

二  争いのない事実

1  原告と富成襄は、平成六年四月一四日、東京法務局渋谷出張所に対し、本件土地について、登記の原因を平成六年三月三一日売買、登記権利者を原告、登記義務者を富成襄とする本件登記を申請し、原告は、申請書に収入印紙を貼付する方法により、本件登録免許税として六二三万〇一〇〇円を納付した。

2  登録免許税法(以下「法」という。)九条、一〇条一項及び別表第一の一の(二)ニによれば、売買を原因とする不動産の所有権移転登記について課される登録免許税の額は、当該登記の時における当該不動産の価額を課税標準とし、これに一〇〇〇分の五〇を乗じて計算するものとされているが、本件登録免許税については、租税特別措置法八四条の三、同法附則二四条九項及び同法施行令四四条の六所定の不動産価額の特例(以下「本件特例」という。)が適用される結果、その課税標準は、平成六年一月一日現在において固定資産課税台帳に登録された本件土地の価格(以下「台帳価格」という。)に一〇〇分の四〇を乗じた金額となる。そして、本件土地の平成六年一月一日現在における台帳価格は三億一一五〇万五六〇〇円であった。

被告は、本件特例によって計算される課税標準に法所定の税率を乗じた六二三万〇一〇〇円が本件登録免許税の額であること及びその納付の事実を確認(法二五条)したうえで本件登記をした。

3  原告は、本件登録免許税の課税標準が著しく高額で不合理であることを理由として、平成六年五月一三日、国税不服審判所長に対し、「登録免許税の納付処分」について審査請求をしたが、同年七月二七日、対象となる処分が存在しないとして、右請求は却下された。

三  争点及びこれに関する当事者の主張

1  争点

本件登録免許税の課税標準及び税額を確定する被告の認定処分なるものが存在するかどうか。

2  被告の主張

登録免許税の納税義務は登記等の時に成立し、納付すべき税額は納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで確定するとされている(国税通則法一五条二項一四号、三項六号)。したがって、本件登録免許税の課税標準及び税額も、本件登記の時に、登記官の処分をまたずして法令の規定により当然に確定するのであって、本件登記の申請の際に納付された税額(この納付は一種の予納と考えるべきである。)が法令の規定によって計算される税額と合致することを被告が確認(法二五条)したことによって、課税標準及び税額が確定し、納付義務が生じたものではない。

したがって、本件登録免許税に関して、その課税標準及び税額を確定する被告の認定処分なるものは存在せず、本件訴えはその対象を欠き不適法である。

3  原告の主張

不動産の所有権移転登記について課される登録免許税の課税標準となる「不動産の価額」とは、当該不動産の客観的な交換価値、すなわち「時価」をいうと解されるから、その価額は登記官の判断を通じてでなければ具体的に確定しないというべきである。すなわち、台帳価格に基づいて課税標準が定まる場合であっても、登記官において、特別の事情があるため台帳価格によることを適当でないと認めるときは、登記官が認定した価額が課税標準となる(法施行令附則四項、租税特別措置法施行令四四条の六第二項)のであるから、登記官において、右特別の事情が存在しないとして、台帳価格によることを正当と認定するまでは、課税標準及び税額は具体的に確定しないのである。

したがって、本件においても、被告は、右特別の事情が存在せず、本件登録免許税の課税標準を台帳価格によって定めることが正当であると黙示的に認定しているものであり、その課税標準及び税額は、被告の右認定処分によって確定したものと解すべきである。

第三争点に対する判断

登録免許税の納税義務は登記等の時に成立し、納付すべき税額は納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで確定するとされており(国税通則法一五条二項一四号、三項六号)、本件登録免許税の課税標準及び税額も、本件登記の時に直接法令の規定によって具体的に確定するのであって、被告による行政処分によって、それらが確定され、納税義務が生じることになるわけではない。そして、被告が法二五条により行う登録免許税の額の納付の事実の確認は、あくまで行政庁内部における確認行為に過ぎず、これによって当該登録免許税の課税標準及び税額が公定力をもって確定されることになるものではないのである。したがって、本件登録免許税に関して原告が主張するような取消訴訟の対象となる被告の認定処分なるものの存在を認める余地はないというべきである。

なお、仮に原告が本件登録免許税として納付した金額が過大である場合には、その過大な金額についての納税義務が被告の処分により公定力をもって確定されているわけではないのであるから、原告としては、納付税額のうちあるべき税額を超える部分について、誤納金として、直ちに、国に対しその返還を求めることができるのであって、原告主張のような被告の認定処分の存在が認められないとしても、その権利利益の救済に特段の支障が生じるものでないことはいうまでもない。

以上のとおり、本件登録免許税の額を六二三万〇一〇〇円とする被告の認定処分は存在しないから、本件訴えは取消しの対象を欠く不適法なものとして却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤久夫 橋詰均 徳岡治)

別紙物件目録<略>

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